ファッションのルーツを知ること
2022.06.01
日本には、世界に誇る素晴らしいデザイナーが何人もいらっしゃいますが、世界的に高い評価を得た日本人衣装デザイナーの筆頭は、間違いなくワダエミさんでしょう。代表作は、アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞した黒澤明監督の「乱」。この映画では、1400着に及ぶ衣装を糸の染や織りから制作されたそうです。
ワダエミさんは、映画や舞台の衣装を手掛ける際、物語の時代背景を徹底的に調査し、その上でみずからの感性で当時あり得ないような鮮やかな色彩や素材を使って華やかに制作しました。
あのひとつの世界をつくりあげる印象的な衣装は、その時代を知るために数百冊の資料を読んだり、徹底的な背景調査の上に作り上げられたものだったのです。
さて今回のコラムでは、衣装デザイナーではなくとも、ファッションを考えるとき、時代の流れによる生活様式の変化を無視することなく、ルーツを知っておくことが大切だということをお伝えできたらと思います。
スーツのルールは軍服だった
日本におけるスーツのルーツは、西洋人から教わった軍服が最初でした。1859年、米国からペリーが来航したとき、一行が着用していた洋装が軍服だったのです。日本の洋装は、それをコピーすることから始まりました。
そのとき、軍服づくりに大いに貢献したのが、赤坂鳥居坂に居を構えた幕末の西洋兵学者・大村益次郎です。その後、布を縫うだけでなく「返す」技術を知っていた足袋職人や袋物師が、立体裁断で服を仕立てる、テーラー育成の対象となりました。こうして麻布をはじめとする各地のテーラーたちがスーツ文化の基礎をつくっていったのです。
スーツの歴史と意味
さて、前述したように軍服から進化したスーツですが、西洋ではもともとは社交の場やパーティで着用されていました。ちなみに、左襟にあるフラワーホールは、詰め襟だった軍服の最上部のボタンホールの名残です。フォーマルの場で着用されていたスーツのパンツの裾は、シングルでした。
1900年初めにスーツ姿で乗馬していた紳士が、馬から降りたときと乗っているときのパンツの丈を調節するために、降りたときに裾を折り返したのがダブルのきっかけです。ダブルのまたの名を「泥除け」というのはこのためです。また、乗馬をする際にジャケットの裾がまくれ上がらないように切れ目を入れたのがセンターベントの始まりです。
つまり、パンツの裾のダブルとジャケットの切れ目は、動きやすさと機能を考慮しての工夫でした。
そこから、フォーマル用のスーツは「裾がシングルのパンツにベントのないノーベントジャケット」がマナーである一方、ビジネス用のスーツは「裾がダブルのパンツに、センターベントかダブルベンツのジャケット」が一般化したという歴史です。
その流れを汲んで、私は、ビジネススーツのパンツの裾はダブルをおすすめしています。もちろん、素材や、その方のポジションなど、着る場面を想定してシングルにする場合もありますが、稀だといえます。
ファッションを考えるとき、時代の流れによる生活様式の変化を無視することはできません。時代とともに形骸化していくことも多く、本体の意味も次第に消えていきます。
しかし、ファッションには相手との人間関係を決定してしまうほどの威力があることを考えれば、なぜそれを着ているのか、なぜそのように着こなしているのかを知っておくほうが得策です。
しかも、それを知っていることで、その衣装に合った立ち振る舞いや言葉遣いとなり、一層あなた自身を魅力的に見せてくれることにもつながります。
おわりに
私が日々の仕事で大切にしていることは「なぜそれをするのか、なぜ今これをしなくてはいけないか」という意味を明確にした上で行動することです。
いざ想定外のことが起きたときに、意味を知っていれば、自分で考え、自分で行動することができます。
印象マネジメントのコツも、それに尽きると思います。装いや髪型、話し方、振る舞いについても「なぜ」と自問自答することは自らを客観視すること、つまりセルフイメージを高めることにつながります。そしてそうすることによって、人とのコミュニケーションがより豊かになると、私は心から信じています。
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